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2013年6月 5日 (水)

「本当に伝えたいこと」と、「よくある質問・誤解」の間 (2)

正教に限らず、キリスト教に対する誤解や誤りは、宗教学者と言われる人たちですらとんでもない事を言っているほど、広くみられます。

こうした誤解や誤りに対して指摘するのではなく、「地道に基本から説明すれば、自ずと誤解は解ける、もっと努力して地道に説明するべきだ。」、という御話をよく目にしたり耳にしたりします。

一見尤もですし、仰る方の善意は分るのですが、私は現状認識が根本的に間違っていると思います。

「誤解している」状態の人に、個別の誤解を解く前に、「キリスト教について基本的なところから地道に説明する」のは、まず不可能だというのが現実的実感です。例を三つ挙げて説明しましょう。

個別具体例についての詳しい説明は、今後別の日記で書いていきます。


━「キリスト教は肉体を否定する宗教だ」と誤解されているケース━

「肉体を否定する宗教」と言われて、たとえば武道家、医療関係者が教会に話を聞きに来ようと思うでしょうか?

実際には正教だけでないキリスト教全てに、医療関係者の信者はもとより、武道家の信者(ロシアの「システマ」などは正教の影響を前面に出して居ますね)も居ます。

それだけで「肉体を否定する宗教」というのは誤った主張だと分るはずと思うのですが…。

もし肉体を否定するのだったら、遺体を土葬せずに、原始仏教やヒンドゥー教のように散骨していたでしょう。

正教会では遺体の額に巻かれたイコンに接吻し、遺体との別れを非常に大事にしています。一方、日本の伝統宗教ではふつう、肉体は穢れたものとされ、葬式から帰ったら塩を撒かれます。一体どちらが肉体を大事にしているか…感想は分れるでしょうが、少なくとも一方的に「キリスト教は肉体否定」と言うのは、見当違いです。

「肉体は魂の牢獄」としたギリシャ哲学の考え方を、キリスト教は一貫して否定して来ました。イイスス・ハリストス(イエス・キリスト)が肉体をもって復活したことは、肉体が本質的に穢れたものでは無い事の証です


━「ニコライ堂や函館ハリストス正教会はロシア正教」と誤解されているケース━

Orthodoxchurches_2 まず、「ロシアの教会」と言うだけで足が遠のく人が多い、というのが残念ながら偽らざる現実です。隣国というのは大体、仲が良く無いというのが残念な現実で、日露関係も例外ではありません。

逆に、「ロシアの教会だからロシア語やロシア文化の本場が味わえる」と思って来られる方は、ロシア語を話せる信者が殆どおらず(※1)、祈祷はほぼ全部日本語で、ラフマニノフの聖歌など一切歌われていないという現実に、大概、期待を裏切られます(※2)

「ロシアの教会だから来ない。」というパターン。

「ロシアの教会だと思って来たら期待していたものと違った」というパターン。

まず、誤解を解きませんと、こういうケースが後を絶つことは無いでしょう。ニコライ堂は正教会の教会です。教会スラヴ語での奉神礼(礼拝)を見たい・聞きたい方は、ロシア正教会の駐日ポドヴォリエ(出張所)がありますので、そちらにお越し頂ければと思います。

もちろん、ギリシャ正教会、ルーマニア正教会、ロシア正教会、セルビア正教会、日本正教会、全て同じ正教会ですから、「ロシア文学を訳しているのですが、正教会の概念・用語について聞きたい」といった御質問であれば、一定範囲内で御答え出来ます

要するに

  • 「ロシア特有のものと思って門をくぐらないのは勿体ないです」 
  • 「ロシア『文化』をあまり過度には期待しないで下さい」(勿論「きっかけとして」ロシア文化があった、という方は大歓迎です)

ということです。


━「キリスト教は西欧・米国の宗教だ」と、口にするまでも無く思い込んで居るケース━

「西欧・米国中心の思考から脱却しなければならない」と仰るほとんどの方は、「キリスト教」を「西欧・米国のものだ」と、言うまでも無く思い込んでいらっしゃいます。

そういう人も「西欧・米国の宗教に用は無い、聞く耳持たない、西欧・米国の考え方を否定する」と頑として思い込んで、文字通り話を聞いて下さらない。

…まず思い出して頂きたいのですが、キリスト教の発祥の地はどこだったでしょうか?エルサレムは西欧・米国でしょうか?

違いますよね。中東、現在のイスラエルにあります。つまり西アジアです。

なんとキリスト教は(西)アジア発祥の宗教だった(どーん)

「でもでも、発祥は西アジアでも、発展したのは西欧でしょw?」と思われた方。ここから先は初めて知る方もいらっしゃるかと思いますが、キリスト教の神学の中心地は当初、アンティオキア(現シリア・トルコ)と、アレクサンドリア(現エジプト)でした。最初期のキリスト教の異端論争において活躍した神学者達の多くが、シリア、エジプトから輩出しています。

キリスト教が初期に発展した場所すらも中東(シリア、エジプト)でした(どどん)

西欧・米国で多数派を占めているカトリック、プロテスタントといった、キリスト教のうちの西方教会は、確かに西欧・米国の主流派と言っても間違いではないものの、「キリスト教は西欧・米国のもの」と考えているならば、その思い込み自体が「キリスト教の本場は西欧・米国である」という、西欧人が考え出した西欧中心主義から脱却出来て居ない思考形態に陥ってしまっているのですそのようにお考えでいらした方は、どうか今後お気を付け下さい。

初期教会から現代に至るまで存続する系譜を持ちつつ、シリア、エジプトには1割から2割のキリスト教徒(多くが東方教会の信者)が現代も居ますが、イスラム原理主義の台頭によって、現地で様々な迫害に遭って居ます。「キリスト教の迫害」は中東で現在進行形です。シリアのために祈りましょう。

トゥギャッターまとめ:シリアにおける教会を巡る情勢と、その関連情報


━最初に解くべき誤りはやはり指摘しなければ始まりません━

以上、3つの事例(他にもあるのですが、今回はこれら3つを挙げました)に共通するのは、その性質上、「最初から教会側の説明に耳を傾けさせないようにする」誤解だということです。

多少口うるさいと思われてでも、この種の誤解をまず解かないと、文字通り「話にならない」のです。まず誤解を解いて、話を聞いてもらえる状態になって頂く。次に「美しい歌、イコン」などを示す。そして教会に実際に足を運ばれた方には、信者さん達と交流してもらう。そこで初めて聖書や教理を説明する。そういう流れが現実的です。

なお、この種の「教会の話を聞かせないようにする」誤解を拡大再生産しつつ、「日本ではキリスト教が流行らない」と仰る「宗教学者」が散見されるのですが、こういうタイプの「学者」を形容するのにどのような言葉が相応しいのか、…私にはまだ見つかりません。


※1…同じ正教会ですから、ロシア人、ルーマニア人の参祷者も多いですし、世間に比べればロシア語が話せる人の割合は相対的には多いとは思いますが、それでも全信者の1割は越えません。というよりおそらく、キリル文字を読めるだけの人に限っても、全信者の1割も居ないでしょう。

※2…数少ないロシアの面影で一番分りやすいものと言えば、バザーでボルシチが出て来たり…と言ったところでしょうか。でも、それくらいです。

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