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2013年7月 6日 (土)

正教会関係の術語につき、よくある間違い解説

色々と質問を受ける機会があったり、マスコミにおける間違いを見たりしますので、以下、正教会関係の話題が出て来る時に、間違われやすい術語を解説します。特に新聞、テレビなどのマスコミ関係者様向けですが、論文や本を書く方々にも読んで頂ければと思います。

日本では本当に少数派の教会ですから、用語や表記はまだまだ知られていません。他にも分らない用語・表記が御有りでお困りの方は、ocj.tokyo@gmail.com (ニコライ堂のメールアドレス)など、各地の教会にお問い合わせ下さい。

なお、以下の用語については日本正教会の公式サイトでも調べられるものです。

1. ×「ミサ」 ○「聖体礼儀」(せいたいれいぎ)

正教会でイイスス・ハリストス(イエス・キリスト)の尊体尊血(そんたいそんけつ)となったパンと葡萄酒を頂く奉神礼(礼拝)は、正教会では聖体礼儀と言います。「ミサ」とは言いません。

英語でもほとんどの場合で、別の単語が使われています。

  • 聖体礼儀 … ギリシャ語:Θεία Λειτουργία, ロシア語:Божественная Литургия, 英語:Divine Liturgy
  • ミサ … ラテン語:missa, 英語:mass 

「ミサ」はローマ・カトリック教会でしか使われない、ラテン語に由来する用語であり、聖公会ではまず使われず、プロテスタントでは全く使われない用語・表記です(マスコミによる表記で、正教会に対する聖体礼儀のみならず、聖公会の聖餐式やプロテスタントの礼拝にも「ミサ」が適用されていて驚くことがあります)。

漢字で「聖体礼儀」と書いた方が、どんな祈祷内容か「わかりやすい」「よく意味を知らないカタカナ表記は避けるべき」これは、どんな分野にも言えることでしょう。

また、正教会にとって一番大事な奉神礼(礼拝)である聖体礼儀を、ローマカトリックの用語(「ミサ」)で書き表されているのを目にした時には、日通の社員がペリカン便(自社の主力商品の一つ)を「宅急便」(他社の商標)と呼ばれた時に感じるであろう感覚と似たものであろう感覚を覚えることを付言します。

一番大事な用語を、別のもので置き換えられてしまっている、そういう状況が愉快なものではないことは、上記に挙げたような企業の商標の場面を考えれば、宗教に関心の無い方でもお分かり頂けると思います。

2. ×「ロシア正教に改宗」 ×「ロシア正教徒」 / ○「正教に改宗」 〇「正教徒」Orthodoxchurches_2

著名な日本人正教徒の記事などでよく目にする(耳にする)間違いです。

「ロシア正教会」「ロシア正教」というのは、主にロシア連邦にある諸教区を管轄する一地方教会名(組織名)です。一組織に改宗など出来ません。あくまで信徒は「正教を信仰している」のであって「ロシア正教を信仰している」のではないのです。

「ロシア正教に改宗」と言いますと、洗礼や帰正(きせい…他教会から正教に改宗すること)の有効性がロシア正教会に限定されてしまうような誤ったイメージすら生みかねません。もちろん事実はそんなことはなく、ギリシャ正教会、グルジア正教会、ブルガリア正教会、ロシア正教会、セルビア正教会、ルーマニア正教会、日本正教会の、どこで洗礼や帰正を経ても、いずれも同じく正教徒です

おそらく「ロシア正教に改宗」と書いている人は「『正教に改宗』だと、ロシアとの繋がりが分かりにくいからねえ」といった理由で(善意から)書いておいでと思われますが、残念ながらより分かりにくくなっています

特に、洗礼を受けた場所も現在の所属も日本正教会の信徒につき、「ロシア正教に改宗」「ロシア正教の信徒」「ロシア正教徒」などと書いているケースが少なくありません。鹿島田真希さんの芥川賞受賞記事でも「ロシア正教に改宗」などと書いている記事が少なくありませんでした。

ドストエフスキーと鹿島田さんの関係から、「ロシア正教」が分かりやすい、と記者は思ったのかもしれませんが、そのドストエフスキーからして「ロシア正教を信仰していた」のではなく「正教を信仰していた」のです。ロシア正教会に所属していたドストエフスキーですらも「ロシア正教徒」ではなく「正教徒」です。まして日本正教会に所属している鹿島田さんに「ロシア正教徒」というのはさらに不適切、単に「正教徒」で良いのです。

「瑣末な誤り」「わかりやすさのためには仕方ない」ものではありません。本人のアイデンティティや所属(「ロシア正教の信徒」とは日本人信徒のみならずロシア人信徒も思いません)、および正教会の組織構成などにつき、かえって分かりにくくしています。

なお、この間違いでは「ニコライ堂はロシア正教会の教会です」などの誤りも同系統になります。詳細は当方のブログ2013年6月13日付のブログ「ニコライ堂はロシア正教なんですよね?(よくある質問・誤解に答えます)」をご覧下さい。

3. ×「司教」 ○「主教」

正教会で最も大事な職分の名です。企業間のやり取りでも、代表取締役の肩書を間違えたら大変失礼にあたるでしょう。どうか丁寧に扱って下さい。何とぞよろしくお願い申し上げます。

  • 総主教 … ギリシャ語:Πατριάρχης, ロシア語:Патриарх, 英語:Patriarch 
  • 府主教 … ギリシャ語:Μητροπολίτης, ロシア語:Митрополит, 英語:metropolitan (Metropolitan bishop) 
  • 大主教 … ギリシャ語:Αρχιεπίσκοπος, ロシア語:Архиепископ, 英語:Archbishop 
  • 主教 … ギリシャ語:Επίσκοπος, ロシア語:Епископ, 英語:bishop

※ スラヴ系伝統にある正教会では府主教が大主教の上位。ギリシャ系伝統にある正教会では大主教が府主教の上位となり、上図とは順序が入れ替わります。

4. ×「イースター」 ○「パスハ」「復活大祭」「復活祭」

特にこれから申し述べます説明を覚えて頂かなくとも、取り敢えず「イースター」という用語だけ避けて頂きたく思います。

以下、説明しますと、「イースター」というのは異教の神の名に由来するとされる通称です。正教会ではこれを避けて、新約の「過ぎ越し」を意味する「パスハ」という呼び方や、主イイスス・ハリストス(イエス・キリスト)の復活を記憶するという内容から、そのまま「復活祭」「復活大祭」と呼ぶようにしています(外部向けに「分りやすく」するために「イースター」と書いている媒体もかつてはありましたが、今では外部向け媒体でもあまり書かれません)。これもまた「片仮名よりも漢字で書いた方が意味が解る」一例ですね。

※ 本ブログは、2012年7月30日に書き、2013年1月16日に修正したものが、前ブログの消去に伴って消滅したものの内容を、内容を一部圧縮・一部加筆修正した上で復活させたものです。

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